溶接職種での外国人雇用技能実習生受入れ〜基礎編〜

2024/05/16

近年の少子高齢化により労働人口は年々減少し、多くの企業様が深刻な人材不足に悩まされています。

溶接業も例外ではなく、特に若年労働人口は下降を続けています。

一般社団法人日本溶接協会が主催する溶接技能者の認証数は、全体の数は増加していますが、年齢層を年度ごとに着目してみると2015年で最も割合が多いのは31歳~40歳、2017年は31歳~40歳と41歳~50歳、2019年は41歳~50歳と徐々に年齢層が上がっています。
30歳未満の割合は2019年時点で24.7%と過去最低の数字で、今後も下降が続くと予想されています。

出典:一般社団法人日本溶接協会『溶接技能者認証者の年齢構成』

溶接業は高い技術が求められる職種のため、人材確保はさらに難しく、特にこの先長く活躍してくれる若い世代の人材育成は必要不可欠でしょう。
若い世代の育成や、自社の海外工場での活躍などが期待できる、外国人人材の受け入れを検討している企業様も多いのではないでしょうか。

今回は、溶接業での外国人技能実習生の受け入れ方法や、審査基準などについて詳しくご紹介します。

外国人技能実習生とは

外国人技能実習制度について

外国人技能実習制度は、外国人の方が日本の技術や知識を習得し、母国へ持ち帰り、自国の経済発展に役立ててもらう、国際貢献を目的とした制度です。
技術の習得をしてもらうことが目的のため、労働力として受け入れることはできません。

技能実習生受け入れの方式

外国人を技能実習生として受け入れるには、企業単独型と団体監理型の2つの方法があります。
大きな違いは、企業単独型は海外に日本の支店や関連会社を持つ大企業向け、団体監理型は中小企業向けであることです。

団体監理型は、技能実習制度のニーズ拡大のため1990年8月に導入されました。2019年度では団体監理型での受け入れ人数が356,310人、全体の比率では97.3%と多くの企業様が監理団体を通して技能実習生の受け入れを行なっています。

団体監理型とは

多くの企業様で利用されている団体監理型について詳しく見ていきましょう。
団体監理型とは、非営利団体の監理団体が技能実習生を受け入れ、監理団体の傘下の日本企業で技能実習を行う方法のことです。


出典:公益財団法人 国際人材協力機構
※企業単独型の場合は監理団体を介さないため、入出国の手続き、日本語教育や技能実習生への講習など受け入れに必要な申請や支援業務を全て企業が対応しなければなりません。

受け入れの条件

受け入れ人数について

技能実習生の受け入れ人数には各条件により、制限があります。

上記の表では受け入れ可能人数を表していますが、いくつか注意点があるためご説明していきます。

まず、雇用保険に加入している社員の総数以上の技能実習生の受け入れは出来ないため、雇用保険に加入している社員の総数が2人の場合、技能実習生の受け入れを行うことはできません。

また、第2号実習生は雇用保険加入社員の総数の2倍、第3号実習生は雇用保険加入社員の総数の3倍以上の人数が上限です。
※雇用保険加入社員総数とは、国内企業の雇用保険に加入している社員総数の合計を指しています。

次に、通常と優良基準適合者の違いですが、優良基準適合者とは、監理団体や受け入れ企業が外国人技能実習機構から「優良な実習実施者」の認定を受けていることを指します。

第3号の受け入れは、監理団体・実習実施者(受け入れ企業)の両方が、「優良な実習実施者」の認定を受けていることが条件になります。
優良基準適合者の認定を受けていれば、通常の2倍の技能実習生の受け入れが可能になるため、優良な監理団体を利用することをおすすめします。

受け入れ期間について

技能実習生が日本に入国してから2ヶ月間、日本語やこれから学ぶ溶接職種についての講習を受けます。
この期間は技能実習生に係る雇用契約が発行されず、実習生に賃金が支払われないため、団体監理型を利用している場合は、監理団体が生活費の実費として技能実習生に対して講習手当を支払います。

技能実習生の受け入れ期間は最大で5年です。
1年目が技能実習第1号、2~3年目が技能実習第2号、4~5年目が技能実習第3号です。
技能実習第2号に移行するためには学科と実技、技能実習第3号に移行するためには実技の試験に合格しなければなりません。

技能実習生を受け入れにかかる費用について

技能実習生を受け入れる際に必要な費用について、こちらの記事で詳しく解説しております。ぜひ参考にご覧ください。

▼関連記事
「技能実習生を受け入れる際にかかる費用をまるっと解説」

技能実習計画の審査基準を満たしているか

技能実習計画とは外国人の技能実習生がどのように技能を習得するのか、また適正に技能を取得できるのか、受け入れ企業がどのような方針で指導していくのかと言うことを説明するための計画表です。
団体監理型の場合は、監理団体が作成指導を行うことが必須なため、初めての方でも作成の負担はそれほど重くないでしょう。

計画表を提出し、外国人技能実習機構が認定後、実習実施期間中、計画通りに実習が行われているかどうか、監理団体が監査を行います。
もし、計画に沿って技能実習を行っていない場合は改善命令が出され、最悪の場合は認定の取消が行われるため、技能実習は計画に沿って正しく行うことが大切です。
※企業単独型は、企業自ら技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構から認定を受ける必要があります。また、計画通りに技能実習が行われているかの監査も企業が行います。

【技能実習計画の審査基準】

今回は初めて受け入れを行う1年目の「第1号技能実習」のみをご紹介いたします。

溶接は、手溶接と半自動溶接の2種類があります。
手溶接の場合:アーク溶接機を使用し、手作業による溶融溶接(融接)を行うこと。
半自動溶接の場合:半自動アーク溶接機を使用し、手作業による溶融溶接(融接)を行うこと。

安全衛生業務

安全衛生業務は、手溶接・半自動溶接ともに必ず行います。
また、必須業務・関連業務・周辺業務ごとに行う必要があるため注意が必要です。

1.雇入れ時等の安全衛生教育
2.作業開始前の安全装置等の点検作業
3.溶接職種に必要な整理整頓作業
4.溶接職種の作業用機械及び周囲の安全確認作業
5.保護具の着用と服装の安全点検作業
6.安全装置の使用等による安全作業
7.労働衛生上の有害性を防止するための作業
8.異常時の応急措置を修得するための作業
9.溶接作業に関係する特別教育(技能実習1号の実務開始前に行うこと)※注意1
10.危険又は有害な業務(溶接作業を除く)に関係する特別教育

※注意1
特別教育(アーク溶接等の業務)の実施(労働安全衛生規則第36条3号)
特別教育に係る学科及び実技教育の内容は、以下のとおりです。

ⅰ)学科の科目
・アーク溶接等に関する知識(1時間)
・アーク溶接装置に関する基礎知識(3時間)
・アーク溶接等の作業の方法に関する知識(6時間)
・関係法令(1時間)
ⅱ)実技教育の内容
・アーク溶接装置の取扱い及びアーク溶接等の作業の方法(10時間以上)

必須業務

手溶接・半自動溶接ごとに必ず行わなければならない業務があります。
下記の掲載内容は全て必須ですので、一つでも欠けると外国人受け入れが出来ません。
また、必須業務の年間実習時間が全体の50%以上であること、安全衛生業務は必須業務の10%以上を占めている必要があります。

例)年間実習時間が2,000時間の場合、必須業務(手溶接もしくは半自動溶接)は900時間、安全衛生業務は100時間。

【手溶接の場合】
1.アーク溶接機及び付属機器の取扱い作業
2.被溶接材の開先加工、調整、タック溶接(仮付け溶接)作業
3.鋼材の下向姿勢での溶接作業(実技試験に使用する材料は中板)

【半自動溶接の場合】
1.半自動アーク溶接機及び付属機器の取扱い作業
2.被溶接材の開先加工、調整、タック溶接(仮付け溶接)作業
3.鋼材の下向姿勢での溶接作業(実技試験に使用する材料は中板)

関連業務

必須業務に関連する技能等の修得に係る業務等で、該当するものを選択することなっています。
必須業務の年間実習時間が全体の50%以下であること、安全衛生業務は関連業務の10%以上を占めている必要があります。

例)年間実習時間が2,000時間の場合、関連業務は540時間、安全衛生業務は60時間。

1.手溶接の場合は、半自動溶接作業。半自動溶接の場合は、手溶接作業。
2.設計図書の読図作業
3.破壊試験作業
4.非破壊試験作業
5.溶接準備作業及び溶接仕上げ作業
6.ガス溶接作業(作業主任者免許、技能講習が必要。)
7.ガス溶断作業(作業主任者免許、技能講習が必要。)
8.スポット溶接作業
9.ティグ溶接作業
10.アルミニウム溶接作業
11.揚重・運搬機械運転作業(各種機械に応じて特別教育、技能講習等が必要。)
12.玉掛け作業(特別教育又は技能講習が必要。)
13.高所作業車運転作業(特別教育又は技能講習が必要。)

周辺業務(手溶接・半自動溶接ともに共通内容)

必須業務に関連する技能等の修得に係る業務等で、該当するものを選択することなっています。
周辺業務の年間実習時間が全体の3分の1以下であること、安全衛生業務は周辺業務の10%以上を占めている必要があります。

例)年間実習時間が2,000時間の場合、周辺業務は360時間、安全衛生業務は40時間。

1.溶接製品の梱包・出荷作業
2.溶接製品の運送作業(加工場から現場)
3.プラスチック溶接作業
4.ろう付け作業
5.スタッド溶接作業
6.溶接製品の錆止め作業

使用する素材、材料等

1.鉄鋼材料※必ず使用
手溶接の場合:JIS Z 3801 に規定する鋼材
半自動溶接の場合:JIS Z 3841 に規定する鋼材

2.溶接材料※必ず使用
手溶接の場合:JIS Z 3801 に規定する溶接材料
半自動溶接の場合:JIS Z 3841 に規定する溶接材料

3.その他材料(手溶接・半自動溶接ともに共通内容)※必要に応じて使用
・JIS Z 3821に規定するステンレス鋼及び溶接材料
・JIS Z 3805に規定するチタン及び溶接材料
・JIS Z 3831に規定するプラスチック及び溶接材料
・JIS Z 3891に規定する銅或いはステンレス及びろう材
・JIS Z 3811に規定するアルミニウム合金及び溶接材料

使用する機械、器具等

手溶接の場合:アーク溶接機及び付属機器を必ず使用。
半自動溶接の場合:半自動アーク溶接機及び付属機器を必ず使用。
手溶接・半自動溶接ともに、下記の物を必ず1つ以上使用すること。
・各種手工具
・測長器、スコヤ、ノギス、マイクロメータ
・やすり、万力、ディスクグラインダ
・卓上・直立ボール盤、両頭研削盤
・ガス切断機及び付属機器
・ガス溶接機及び付属機器

手溶接・半自動溶接ともに、下記の物が必要であれば使用すること。
・スポット溶接機及び付属機器
・TIG溶接機及び付属機器
・揚重運搬機械
・玉掛用具
・高所作業車
・フォークリフト

製品等の例

特定の製品はなく、金属製品製造業をはじめとする多様な分野で溶接工によって製造される製品・部品を指します。建設業では、ビルディング、橋、ダムのような鉄骨構造物も製品として考えられます。

技能実習計画の審査基準のまとめ

1.必須業務・関連業務・周辺業務をそれぞれ必ず行うこと。

2.年間実習時間の割合は、必須業務は50%以上、関連業務は50%以下、周辺業務は3分の1以下に収めること。また、各業務内に安全衛生業務が含まれており、それぞれ10%以上時間を確保すること。
例)年間実習時間が2,000時間の場合
必須業務は900時間、必須業務の安全衛生業務は100時間。
関連業務は540時間、関連業務の安全衛生業務は60時間。
周辺業務は360時間、周辺業務の安全衛生業務は40時間。

3.使用する素材や材料、機械や器具の規定があるため、実習を行う会社にあるか確認を行うこと。

移行対象職種・作業とはならない業務例
・必須業務を行わず、関連業務および周辺業務のみ
・手溶接の場合、棚・床養生用鉄板等補修作業のみ
・半自動溶接の場合、棚・床養生用鉄板等補修の溶接作業のみ

出展:厚生労働省『技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能実習評価試験試験基準』

まとめ

今回は、溶接業での技能実習生受け入れの方法や条件についてご説明してきました。

技能実習生を受け入れる場合、ビザの申請や日本に滞在中の生活支援など、受け入れ企業が行わなければならない様々な手続きがあります。
また、職種が溶接になると技能実習で必ず行わなければならない作業内容の把握など、必要な知識が多く存在します。これらを受け入れ企業で全てまかなうには、多くの作業コストが必要になり、採用担当者の負担も大きくなってしまいます。

監理団体を利用すれば、技能実習生を受け入れに必要な申請や生活支援業務のサポートを受けられるため、受け入れまでのハードルは低くなるでしょう。

当社では、技能実習生の受け入れを検討されている企業様に向けて監理団体の紹介も行なっています。
また、外国人人材の雇用に関する実績も多くあるため、まだ依頼を決めていない企業様にも納得して受け入れを進めていただけるよう、どんな小さな疑問でも丁寧にご説明させていただきます。
ぜひお気軽にご相談ください。

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