外国人技能実習生の失踪を防ぐ~前兆と対策~
- 外国人採用タイムズ
2024/05/14
近年、国内における人材不足が深刻化し、技能実習生を積極的に受け入れる企業が増えています。同時に技能実習生の受け入れ人数に比例して技能実習生の失踪が年々増加しており、大変問題になっています。
令和2年、技能実習生の失踪者は5,885人です。この人数は技能実習生全体の人数(494,798人)の1.2パーセントです。
出典:出入国在留管理庁「失踪技能実習生を減少させるための施策」
技能実習生の失踪は、失踪した本人や企業にとって、不幸な結果を招きます。失踪の原因は、環境が劣悪で逃げ出すということもあれば、環境に問題がない場合もあります。
失踪を未然に防ぐためには、監理団体によるサポート内容が充実していることが重要になってきます。
悪質な監理団体や実習実施者(受入企業)は、外国人技能実習機構によって行政処分を受けることもありますので、監理団体の選び方には注意が必要です。
この記事では技能実習生が失踪する原因と前兆、そしてその対策について解説していきます。
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監理団体の重要性について詳しく知りたい方は、別記事「監理団体を見直す ~監理団体変更とは~」で解説していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
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失踪してしまった後のとるべき行動については、別記事「技能実習生の失踪の実態・失踪後の対応方法」で解説していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
失踪の主な原因
失踪の原因については大きく5つに分かれます。その中でも受入企業(実習実施者)に主な原因がある場合とその他の原因に分けて解説していきます。
受入企業(実習実施者)に主な原因がある場合
(1)賃金に関するトラブル
まず多いのは賃金に関するトラブルから失踪するケースです。
主には
- 最低賃金を下回る給与の支払いによる最低賃金違反
- 契約した内容通りに給与が支払われない契約賃金違反
- 賃金からの不当な控除がされている割増賃金の未払い
などが例としてあげられます。※計算間違いによる未払いについても未払い扱いとなります。
また入国前に受けた説明(給与条件、職務内容など)と違い、入国前後での相違(ギャップ)が生じ、失踪につながるケースもあります。
この点に関しては送出機関と監理団体によるフォローが必要ですので、事前にすり合わせるようにしたほうが良い点です。
2020年4月の民法改正を受け、残業代請求権の消滅時効が2年から3年に延長されました。
これにより、未払い残業代を労働者がまとめて請求する場合に、今まで以上の残業代を受け取れるようになりました。
3年間へ延長されたのは、あくまで暫定的な措置であり、今後は5年に延長されると見込まれています。
もちろん外国人でも弁護士を立てて請求することがあり得ますので、高額な遅延損害金を支払うことにならないよう、給与計算については適切に行いましょう。
(2)残業時間等の不正
残業時間等の不正についてもトラブルとなり、失踪につながります。
- 長時間労働による36協定違反
- 拘束し労働しうる対価への未払い
- 不平等な残業時間数などが挙げられます。
日本人に比べて、収入を得るために残業を好む技能実習生は多いですが、トラブルになった時のことを想定し、きっちりと労働時間を管理しましょう。
(3)その他の人権侵害
その他の人権侵害とは、暴力・暴言、本人書類を不当に預かる等です。特に暴力は失踪に直結します。
如何なる場合でも暴力及び身体的指導は認められません。
- 「何度説明しても同じ失敗を繰り返したから」
- 「会社の大きな損益に繋がるミスだとわかってほしかったから」
- 「そのミスが命に関わる危険な作業だったから監督責任を果たしただけだ」
- 「指導を聞く態度が悪かったから、指導者に対して反発をしてきたから」
など例え100パーセント技能実習生側に非がある場合でも暴力及び身体的指導は認められません。
話し合いが必要な実習状況であれば監理団体が間に入り、母国語を使ってお互いの理解を深める必要があります。
その為、日々の監理団体のサポート(=相談しやすい関係構築)が重要となります。
また在留カードやパスポートなどをなくさないように預かる行為も違反となるので注意が必要です。
その他の原因
(1)資格外活動による実習意欲低下
近年多いのが資格外活動による実習生の意欲低下です。
資格外活動とは技能実習計画以外でお金を稼ぐ行為(アルバイト・副業など)です。
そもそも技能実習生の資格外活動は認められていません。
技能実習生は技能実習に専念し、技能等の移転に努めなければならない旨の責務が定められています。
この責務からも明らかなように、技能実習生は、仮に入管法上の資格外活動許可を得たとしても、他所で就労活動を行うことは認められません。
しかし近年はSNSなどを使い、携帯端末や日本のサプリメントなどの転売が容易にできてしまいます。
技能実習での給与より効率よく稼げると感じてしまう副業は、実習意欲低下につながり、やがて失踪へと繋がってしまいます。
このケースは優秀な技能実習生ほど陥りやすいので、注意が必要です。
技能実習生の資格外活動は認められていないことを定期的に伝えることが対策となってきます。
(2)他社からの失踪の誘い
資格外活動でも触れましたが、近年はほとんどの技能実習生がスマートフォンを所持し、SNSでのネットワークがあります。
SNS上には「失踪専門ページ」が存在します。稼げる仕事を紹介します、などそこには求人がたくさんあり、真面目に実習する技能実習生を誘惑します。
しかしそこの求人は、嘘の情報であることが多く、実際働いてみると、住居環境が整っていない、給与が正当に支払われないなどのトラブルも相次いでいるようです。
上記のような失踪ブローカーからの勧誘もありますが、失踪した技能実習生(そもそも失踪前提で入国する実習生もいます)からの勧誘もあるので技能実習生の友人関係や交流関係には注意が必要です(帰国直前、空港にて疾走する実習生もいますので最後まで注意しましょう)。
失踪予兆と対策
失踪の前には、何らかの変化があることが多いです。その変化に気づくことが失踪を防ぐポイントとなります。
例え受入企業(実習実施者)側に非がなかったとしても、実習実施者として目指すべき優良企業か否かの判定に大きな影響が出ますので、確認しておきましょう。
優良な実習実施者の基準については、6割以上の点数(120点満点で72点以上)が必要ですが、3年以内に実習実施者の責めによるべき失踪があった場合はその時点で優良判定は受けられません。
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受入企業(実習実施者)の優良判定については、別記事「技能実習生を受け入れる企業が目指すべき優良な実習実施者とは?」で解説していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
主な変化と前兆
主な変化と前兆については以下が挙げられます。
- 休日に同僚も聞いたことがない友達の家に行くことが増えている
- 正月等以外のタイミングで母国に一時帰国したいと頻繁に相談がある
- 急に態度が悪くなる、遅刻が増える
- 急に休むことが増える(当日連絡、連休に合わせるなど)
- お金についての相談が増える(前払いなど)
- 在留カードの更新時期を気にする(いつまで日本に入れるのかを気にする)
対応策
(1)関係性は「つかず離れず」
実習実施者と技能実習生の距離が離れるのは問題ですが、距離が近すぎることもトラブルに発展するケースとなり得ます。
過度に心配をしすぎると、それを拘束と感じられる方もいます。
気にかけることはとても大切ですが、監理団体等を交えるなどして「つかず離れず」を意識しましょう。
特に大切なことは日本語でもいいので、悩みがないか直接聞きコミュニケーションを取ることです。
日本人同士のやり取りより、少しだけ具体的に聞くことが大切です。
抽象的な質問だとほとんどの場合、「大丈夫です」「問題ありません」としか返ってきません。
答え方がわからないからとりあえず答えているだけのことが多く、悩みの発見には至りません。
例えば、お金に困っていないか、仕事の内容は難しいか、わからないことは誰に聞いているか、ちゃんと教えてもらえるか、家族は元気か、など具体的に聞いてみましょう。
(2)三者面談の実施
実習実施者、技能実習生、監理団体の三者面談の機会を設けることで直接言いづらいことも話せる場合があります。
母国語を話せず精神的に辛くなり失踪してしまうケースもありますので、三者面談(母国語面談)の設定を監理団体に相談することをお勧めいたします。
また、監理団体との三者面談以外にもよく仕事で一緒になる方との面談も実施すると悩みを相談しやすい環境が作れます。
(3)職場以外で相談できる機会を設ける
ランチ会や食事会などオープンに話せる環境を定期的に設けましょう。
まとめ
今回は技能実習生が失踪する原因と前兆、そしてその対策について解説しました。
各メディアでの外国人労働者に関する報道はネガティブなものが目立ちます。受入企業(実習実施者)側の賃金の未払いや劣悪な労働環境の実態、また外国人労働者側の失踪や犯罪のニュースもあります。
上記は事実であり、改善が必須です。しかし実態は、ネガティブなことばかりではありません。技能実習生を受け入れたことによって「職場が明るくなって活気づいた!」「外国人労働者が初めての指導となる若手社員が飛躍的に成長した!」などのポジティブな声も多いのも事実です。
技能実習生側にとっても実習生活が人生の大きな財産となり、実習期間を終えて帰国する際に涙を流す実習生も多くいます。
今回の解説で例え良い環境で実習していたとしても失踪しうることがお伝えできたかと思います。
誰も幸せにならない失踪を増やさないために変化に気づく環境を作り、良好な関係性を築きましょう。