在留資格「経営管理」の取得基準のポイントとは?
- 在留資格を知る
2024/04/16
外国人が日本で経営者、もしくは企業の管理者になるには、「経営管理」の在留資格取得が必要です。
ビザの申請に対して、国が「事業所の確保(存在)」と「事業の継続性」に関する2つの基準で審査を行います。
今回の記事では在留資格「経営管理」の取得基準のポイントについて解説します。
事業所の確保の審査基準
事業所確保の審査基準では、外国人が事業を行うために事業所として使う施設が確保されているかどうかがチェックされ、事業所は日本に存在していることが必須です。
また、事業所と住居は別々にしなくてはならないため、住宅物件の場合は大家の書面承諾が必要となります。
事業所の定義
総務省の日本標準産業分類では、事業所は次の通り定義されています。
- 経済活動が単一の経営主体のもとにおいて一定の場所すなわち一区画を占めて行われていること。
- 財貨及びサービスの生産又は提供が、人及び設備を有して、継続的に行われていること。
この2つを満たしていれば、事業所の確保(存在)に適合しているものと認められます。
そのため、住居と事業所を明確に分ける必要があります。
事業所には、机や椅子、パソコン、電話などの設備を用意して事業経営ができるようにしなくてはいけません。
なお、バーチャルオフィスや短期間の賃貸スペースを事業所として申請する場合、却下される可能性が高いため、注意が必要です。
賃貸物件の事業所の条件
賃貸物件を事業所として利用する場合、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 賃貸借契約において賃貸物件の使用目的を事業用、店舗、事務所など事業目的であることを明らかにすること。
- 賃貸借契約者について当該法人の名義とすること。
- 賃貸借契約者について当該法人による使用であることを明確にすること。
特にマンションは、住居以外の使用ができない場合があります。
そのため、賃貸借契約をする際に、その物件が事務所や店舗として使えることを契約に明記する必要があります。
また、法人で賃貸契約をする場合、法人契約をして自分が使用することも明記する必要があります。
住居と事務所が同じ施設の場合
住居として賃貸契約をした物件の一部を使って事業を行うには、以下の条件を満たす必要があります。
- 住居目的以外での使用を貸主が認めていること
- 借主も当該法人が事業所として使用することを認めていること
- 事業を行う設備等を備えた事業目的占有の部屋を有していること
- 物件に係る公共料金等の共用費用の支払に関する取決めが明確になっていること
- 看板類似の社会的標識を掲げていること
個人で住居として物件を借りて、その部屋の一部を法人に貸し出す契約になります。
これを転貸といいます。
そのため、物件の貸主は転貸の承認が必要なうえ、光熱費や水道料金などの割合も明確にしないといけません。
さらに、事業所が存在していると明示するため、看板等の掲示物も必要となります。
事業所としての許可・不許可事例
これまでのことから、事業所の確保(存在)の許可、不許可の事例を紹介します。
許可事例
事例1 Aは,本邦において個人経営の飲食店を営むとして在留資格変更申請を行ったが,事務所とされる物件に係る賃貸借契約における使用目的が「住居」とされていたものの,貸主との間で「会社の事務所」として使用することを認めるとする特約を交わしており,事業所が確保されていると認められたもの。
事例2 Bは,本邦において水産物の輸出入及び加工販売業を営むとして在留資格認定証明書交付申請を行ったところ,本店が役員自宅である一方,支社として商工会所有の物件を賃借していたことから,事業所が確保されていると認められたもの。
事例3 Cは,本邦において株式会社を設立し,販売事業を営むとして在留資格認定証明書交付申請を行ったが,会社事務所と住居部分の入り口は別となっており,事務所入り口には,会社名を表す標識が設置されていた。また,事務所にはパソコン,電話,事務机,コピー機等の事務機器が設置されるなど事業が営まれていることが確認され,事業所が確保されていると認められたもの。
法務省「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」より
不許可事例
事例4 Dは,本邦において有限会社を設立し,当該法人の事業経営に従事するとして在留期間更新許可申請を行ったが,事業所がDの居宅と思われたことから調査したところ,郵便受け,玄関には事業所の所在を明らかにする標識等はなく,室内においても,事業運営に必要な設備・備品等は設置されておらず,従業員の給与簿・出勤簿も存在せず,室内には日常生活品が有るのみで事業所が確保されているとは認められなかったもの。
事例5 Eは,本邦において有限会社を設立し,総販売代理店を営むとして在留資格認定証明書交付申請を行ったが,提出された資料から事業所が住居であると思われ,調査したところ,2階建てアパートで郵便受け,玄関には社名を表す標識等はなかったもの。また,居宅内も事務機器等は設置されておらず,家具等の一般日常生活を営む備品のみであったことから,事業所が確保されているとは認められなかったもの。
事例6 Fは,本邦において有限会社を設立し,設計会社を営むとして在留資格変更許可申請を行ったが,提出された資料から事業所が法人名義でも経営者の名義でもなく従業員名義であり同従業員の住居として使用されていたこと,当該施設の光熱費の支払いも同従業員名義であったこと及び当該物件を住居目的以外での使用することの貸主の同意が確認できなかったことから,事業所が確保されているとは認められなかったもの。
法務省「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」より
事業の継続性について
次に、事業が確実に行われる、持続することが見込まれているということが重要になります。
しかし、1年の決算だけだと赤字決算になる場合もあるので、過去の決算状況や貸借状況などを含めて事業の継続性を総合的に判断されます。
事業の継続性に関する用語
継続性の判断する指標となる用語に、直近期と直近期前期のふたつがあります。
直近期
直近の決算が確定している期間のことです。
たとえば、会社の決算が4月だとしたら、2023年5月に「経営管理」を更新する場合、直近期は2023年4月決算のものになります。
直近期前期
直近期の1期前の期間のことです。
たとえば、会社の決算が4月だとしたら、2023年5月に「経営管理」を更新する場合、直近期前期は2022年4月決算のものになります。
剰余金
剰余金とは、純資産から、資本金・資本準備金を控除したものです。
純資産というのは企業の総資産から債務を引いた数字で、その数字から経営者や株主が出資したお金を引くと剰余金になります。
欠損金
欠損金とは、損金の額が益金の額を超える場合に生じた金額のことです。
法人税を計算する際の所得金額(=益金-損金)がマイナスであれば、欠損金が発生します。
債務超過
債務超過とは、負債が資産の額を上回った状態のことを指し、この時の純資産はマイナスとなります。
よく耳にする赤字は一定期間で費用が収益を上回るのに対し、こちらは一定時点となります。
売上総利益
売上総利益は事業の継続性を判断する1つの指標となります。
売上総利益とは、純売上高から売上原価を引いた金額で粗利とも呼ばれています。
売上総利益がある場合でも、欠損金によって事業の継続性の判断が変わります。
直近期末に剰余金がある場合、または欠損金がない場合
直近期において当期純利益があり、同期末において剰余金がある場合は、事業の継続性に問題はないと言えます。
たとえ直近期に損失があったとしても、欠損金までにならない場合、事業の継続性に重大な影響がないと判断されます。
直近末期に欠損金がある場合
この場合は、債務超過になっているかどうかで判断します。
- 直近期末に債務超過となってない場合: 今後1年の事業計画書や予想収益を示した資料の内容や資金調達などの状況によって、事業の継続が見込まれる可能性があると判断されます。
- 直近期末に債務超過となり、1年以上継続している場合:財務状況や改善がされていないことなどから、事業の継続性が低いと判断されます。
- 直近末に債務超過となっているが、1年以上継続していない場合:具体改善の見通しがあることを前提として事業の継続性を認めます。例えば、直近期末では債務超過しているが、前期末までは債務超過していない場合です。
改善策は、中小企業診断士や公認会計士など、公的資格を有する人に評価を行った書面である必要があります。それをもって、事業の継続性を判断します。
直近期と直近期前期に売上総利益がない場合
2期連続に売上総利益が出てない場合、事業の継続性があるとは認められません。また、たとえ不動産の売却のような特別利益があっても、長期の利益の確保ができないと判断されて、同じく継続性が低いと判断されます。
事業の継続性に関する事例
これまでのことから、事業所の継続性の許可、不許可の事例を紹介します。
事例1 当該企業の直近期決算書によると,当期損失が発生しているものの,債務超過とはなっていない。また同社については第1期の決算である事情にも鑑み,当該事業の継続性があると認められたもの。
参考指標(売上高総利益率:約60%,売上高営業利益率:約-65%,自己資本比率:約30%)
事例2 当該企業の直近期決算書によると,売上総損失(売上高-売上原価)が発生していること,当期損益は赤字で欠損金もあり,また,欠損金の額は資本金の約2倍が発生していることから,当該事業の継続性を認められなかったもの。
参考指標(売上高総利益率:約-30%,売上高営業利益率:-1,000%超,自己資本比率:約-100%)
※各種計算の手法は提出された直近期の決算書をもとに以下のとおり算出(利益はプラス,損失はマイナス。)。
売上高総利益率=売上総利益(損失)÷純売上高×100
法務省「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」より
売上高営業利益率=営業利益(損失)÷純売上高×100
自己資本比率=自己資本(剰余金又は欠損金を含む)÷総資本×100
まとめ
在留資格「経営管理」を取得するにあたり、事業所の確保(存在)と事業の継続性の基準を満たす必要があります。
日本で事業を行い、利益を出してもらうための資格なので、継続性が見込めない場合は在留資格不許可になってしまいます。